インバウンド観光客があなたの宿で素晴らしい時間を過ごし、満足してチェックアウトされた後、私たちの役割は完了なのでしょうか?
答えは「ノー」です。むしろ、ここからがインバウンド集客において、長期的な成功を収めるための新たな、そして非常に重要なフェーズの始まりです。満足したゲストを、単なる過去の宿泊客として終わらせるのではなく、「あなたの宿のファン」に変え、さらに次のインバウンド客を連れてきてくれる「推奨者(アボケイト)」になってもらうこと。これが、これからのインバウンド集客における競争優位性を築く上で不可欠な戦略となります。
彼らが帰国した後、オンラインで発信する「口コミ」や「SNS投稿」は、これから日本への旅行を計画する無数の人々にとって、最も信頼される「生の情報」となります。そして、彼ら自身が「また日本に行くなら、あの宿に泊まりたい」と感じてくれれば、リピートという安定した収益源にも繋がります。
ここでは、チェックアウト後のインバウンド顧客とどのように繋がり続け、彼らをあなたの宿の強力な味方にしていくか、具体的な「ポストステイ戦略」と「顧客ロイヤリティ戦略」を深掘りしていきます。口コミを戦略的に促進する方法、ユーザー生成コンテンツ(UGC)を最大限に活用する方法、そしてリピーターを育てるための仕掛けなど、明日からすぐに取り組める、未来の集客に繋がるヒントを探っていきましょう。
さあ、素晴らしい滞在体験の余韻を、あなたの宿の持続的な成長のエネルギーに変えるための戦略を、一緒に磨き上げていきましょう。
インバウンド観光客があなたの宿で素晴らしい時間を過ごし、満足してチェックアウトされたとします。この「満足」は、一時的なもので終わらせてはいけません。彼らが帰国した後もあなたの宿との繋がりを維持し、彼らのポジティブな体験を未来の集客に繋げるための戦略を実行することが、ポストステイフェーズの目的です。
ここでは、満足したインバウンド顧客を「ファン化」し、あなたの宿の「推奨者」になってもらうための具体的な戦略を深掘りします。
戦略1:満足を「口コミ」に変える ~ 戦略的なレビュー促進と管理
前回の記事でも触れましたが、オンラインレビューは、インバウンド観光客が宿を選ぶ上で最も信頼する情報源の一つです。良いレビューを増やすことは、新たな顧客に「見つけてもらう」「予約を決める」ために最も効果的な方法の一つです。
- クチコミ投稿を促す「適切なタイミング」と「具体的な方法」:
- ゲストの満足度が高いチェックアウト直後、あるいは帰国して少し落ち着いた頃(通常はチェックアウト後24時間以内)が、クチコミ投稿をお願いする最適なタイミングです。
- 感謝の言葉と共に、OTA(Booking.com, Expediaなど)、Googleレビュー、TripAdvisorなど、どのプラットフォームにクチコミを投稿してほしいかを具体的に案内しましょう。レビューページへの直接リンクやQRコードを記載した多言語のサンキューカードを渡したり、チェックアウト後のフォローアップメールに記載したりすることが効果的です。
- レビュー投稿のメリット(例:「あなたの声が、次の旅行者の参考になります」「サービスの向上に役立ちます」)を伝えることも、投稿の動機付けになります。
- 寄せられたクチコミへの迅速かつ丁寧な「多言語」返信:
- ポジティブなクチコミには、感謝の気持ちを具体的に伝え、滞在中のエピソードなどを引用することでパーソナルな返信を心がけましょう。「またのお越しをお待ちしております」といった再訪を促すメッセージを添えるのも良いでしょう。
- ネガティブなクチコミには、感情的にならず、迅速かつ真摯に謝罪し、状況の説明や改善策を具体的に記述します。公の場での返信は、他の潜在顧客も見ています。誠実な対応は、信頼回復や「この宿は問題に真摯に対応する」というポジティブな印象に繋がります。
- 返信は必ず多言語で行い、ゲストが使用した言語で返信するのが最も望ましいです。
- クチコミ内容の分析とサービス改善への活用:
- 寄せられるクチコミの内容を定期的に分析し、宿の強みや弱み、改善すべき点を特定します。特に複数のクチコミで共通して言及されている点があれば、優先的に対応すべき課題です。クチコミをサービス改善のPDCAサイクルに組み込みましょう。
【学ぶべきグローバル事例:レビュー促進と管理】 TripAdvisorは、宿泊施設向けのツールを提供しており、過去の宿泊客にレビュー投稿を依頼するメールを自動送信する機能などがあります。また、多くのグローバルホテルチェーンは、社内にクチコミ管理専門のチームを置き、世界中のホテルに寄せられるレビューに迅速かつ一貫したポリシーで対応しています。彼らは、レビュー管理が単なる顧客対応ではなく、ブランドイメージの構築と直接的な集客に繋がる最重要業務の一つであると認識しています。
【経営者の皆様への問い】 あなたの宿では、満足したインバウンド客にクチコミを投稿してもらうための具体的な「仕組み」がありますか?寄せられた多言語のクチコミに、迅速かつ丁寧に対応できていますか?クチコミを宿の改善に活かしていますか?
戦略2:感動を「シェア」に変える ~ ユーザー生成コンテンツ(UGC)の活用
宿泊客が自身のSNSに投稿した宿や旅の写真は、友人やフォロワーにとって非常に強い影響力を持つ情報源です。これは「ユーザー生成コンテンツ(UGC)」と呼ばれ、あなたの宿の最高の「無料プロモーション」となります。
- UGCのモニタリングと発見:
- 宿の名前や関連するハッシュタグ(#〇〇旅館、#(地名)hotelなど)で、SNS(Instagram, X, Facebook, TikTokなど)を定期的に検索し、宿泊客が投稿した写真や動画を発見しましょう。
- 発見したUGCの活用:
- ゲストが投稿した素晴らしい写真や動画を、あなたの宿の公式サイトや公式SNSアカウントで紹介する際は、必ず投稿者に許可を取りましょう。許可を得たら、出典(ゲストのアカウント名など)を明記してシェアします。これにより、ゲストは尊重されたと感じ、他のユーザーも安心してコンテンツをシェアするようになります。
- UGCを活用する際は、単にリポストするだけでなく、「〇〇様、素晴らしいお写真をシェアしていただきありがとうございます!△△を楽しまれたのですね!」といったように、パーソナルなメッセージを添えることが重要です。
- UGCを促進するための仕掛け:
- 宿内に「SNS映え」するフォトスポットを設ける(例:景色の良い場所、ユニークなデザインの空間、美しい庭園など)。
- 宿のオリジナルハッシュタグを作成し、館内や多言語の案内でゲストに知らせる。
- ゲストにハッシュタグを付けて投稿してもらうことで参加できるシンプルなキャンペーンを実施する(例:抽選で次回割引券プレゼントなど)。
【学ぶべき日本の事例:UGC活用】 日本の多くの地方旅館やテーマ型ホテルは、美しい景観、ユニークな客室、工夫を凝らした食事など、「SNS映え」する要素を意図的に作り出し、宿泊客が自然と写真を撮りたくなるような仕掛けをしています。そして、宿泊客が投稿した美しい写真を宿の公式アカウントで積極的に紹介することで、更なるUGCの創出と、宿の魅力の発信に成功しています。具体的な施設名としては多岐にわたるため特定は避けますが、SNSで「日本の絶景宿」「〇〇温泉 旅館」といったハッシュタグを検索すると、多くの宿が宿泊客の写真をリポストしている様子が見られます。
【学ぶべき海外事例:UGCキャンペーン】 多くの海外の旅行関連企業(ホテル、観光局、航空会社など)は、UGCを活用したキャンペーンを積極的に実施しています。例えば、特定のハッシュタグを付けて旅の写真を投稿すると、抽選で賞品が当たるキャンペーンや、ユーザーの写真を公式アカウントのカバー写真に使用するといった企画です。これにより、莫大な量のUGCを収集し、コストをかけずに多様な魅力を発信することに成功しています。ハイアットホテルズなど大手チェーンも、ゲストのSNS投稿を収集・管理し、マーケティングに活用するツールを導入しています。
【経営者の皆様への問い】 あなたの宿では、インバウンド客が思わず写真や動画を撮ってシェアしたくなるような魅力がありますか?宿泊客がシェアしたUGCを、宿のプロモーションに活用できていますか?UGC促進のための簡単な仕掛けやキャンペーンを実施していますか?
戦略3:一度きりで終わらせない ~ リピーター獲得とファン育成
素晴らしい体験を提供し、良い口コミやUGCを生み出してもらったら、次は彼らをあなたの宿の「リピーター」や「生涯のファン」へと育成する段階です。
- 直接予約への誘導とリピート特典:
- チェックアウト時のサンキューメッセージや、フォローアップメールで、公式サイトからの直接予約がお得であることを伝え、リピーター向けの割引や特典(例:ウェルカムドリンク、アメニティグレードアップ、レイトチェックアウトなど)を用意していることを案内しましょう。
- 顧客との継続的な関係構築:
- メールマガジン(オプトイン形式、多言語対応)を通じて、宿の最新情報、季節のイベント、周辺地域の魅力などを定期的に発信し、顧客との繋がりを維持します。
- ソーシャルメディアでゲストと繋がることでも、継続的な関係を築けます。ゲストの投稿に「いいね!」やコメントをするなど、積極的なインタラクションを続けましょう。
- シンプルで分かりやすいロイヤリティプログラム:
- 大規模なチェーンホテルにあるような複雑なポイントシステムではなくとも、シンプルなリピーター特典制度は有効です。例えば、「3回目の宿泊で特別割引」「〇回以上宿泊のお客様はVIPサービス」といった分かりやすい特典を用意し、案内します。
- パーソナルなコミュニケーション:
- 過去の宿泊履歴や、滞在中に得た情報(例:好きな部屋タイプ、食事の好み、旅行の目的など)を記録し、次回予約時や特別な機会(例:誕生日、結婚記念日、前回の滞在記念日など)にパーソナルなメッセージを送るなど、一人ひとりの顧客に合わせた対応を心がけることで、強いロイヤリティが生まれます。
【学ぶべきグローバル事例:ロイヤリティとリピート】 マリオットボンヴォイやヒルトン Honorsといったグローバルホテルチェーンは、強固なロイヤリティプログラムを核に、世界中の顧客を囲い込み、リピート率を高めています。モバイルアプリを通じたパーソナルなコミュニケーション、会員限定特典、滞在履歴に基づいたサービス提供などを徹底しています。また、中小規模のブティックホテルでも、過去のゲストに手書きのサンキューカードを送ったり、メールマガジンで地域の最新情報を丁寧に発信したりすることで、熱心なファンを獲得している例は多数あります。
【経営者の皆様への問い】 あなたの宿では、一度宿泊したインバウンド客に「また泊まりたい」と思ってもらうための特別な働きかけをしていますか?リピーター向けの特典や、顧客と継続的に繋がるためのコミュニケーション手段を持っていますか?
まとめ:ポストステイ戦略こそ、未来のインバウンド集客への投資
インバウンド観光客がチェックアウトした瞬間から始まる「ポストステイ」のフェーズは、あなたの宿のブランドを強化し、将来の集客を持続可能なものにするための非常に重要な期間です。満足したゲストに戦略的に働きかけることで、彼らはあなたの宿の最高の「口コミ発信者」となり、「ユーザー生成コンテンツ」という強力なプロモーション資源を提供し、そして「リピーター」として安定した収益をもたらしてくれる可能性があります。
- チェックアウト後、適切なタイミングで、分かりやすい方法でクチコミ投稿をお願いする。
- 寄せられた多言語のクチコミには、迅速かつ真摯に、パーソナルな返信を行う。
- 宿泊客がシェアした素晴らしいUGCを積極的に発見し、許可を得て活用する。
- 公式サイトからの直接予約やリピートを促す特典を用意し、案内する。
- メールやSNSなどを通じて、顧客と継続的に繋がり、パーソナルなコミュニケーションを心がける。
これらのポストステイ戦略は、単に売上を増やすだけでなく、あなたの宿の信頼性、魅力、そして顧客体験の質を高めるための投資です。熱心なファンは、価格だけでなく、あなたの宿が提供する価値全体を評価し、競合施設との差別化を明確にしてくれます。
インバウンド市場は今後も変化し続けますが、そこで最も揺るぎない資産となるのは、あなたの宿を心から愛し、応援してくれる「ファン」の存在です。
あなたの宿が、インバウンド観光客にとって、旅の素晴らしい思い出であると同時に、彼らの心に深く刻まれ、またすぐにでも再訪したくなるような、そして友人にも自信を持って薦められるような「生涯の宿」となることを願っています。