1. まとめ
本レポートは、日本のインバウンド観光市場における主要な国・地域からの訪日客の特性について、最新のデータを基に比較分析を行うものである。2023年から2024年にかけての回復・成長の過程で、韓国、台湾、中国、香港、米国といった主要市場は、訪日客数、消費額、旅行目的、滞在期間、人気の目的地、活動内容などにおいて、それぞれ顕著な違いを示している。特に、モノ消費からコト消費への移行という全体的な傾向が見られる中で、市場ごとの行動様式のニュアンスを深く理解することは、今後の日本の観光戦略にとって不可欠である。日本のインバウンド市場は決して均一ではなく、国・地域ごとに異なる回復パターンや消費行動が見られるため、画一的なアプローチではなく、各市場に最適化された戦略が求められる。
2. 日本のインバウンド観光の概況(2023年~2024年)
日本のインバウンド観光市場は、パンデミック後の力強い回復と成長を遂げている。このセクションでは、近年の全体的な動向と主要な変化について概観する。
訪日外客数と成長トレンド
2023年の訪日外客数は約2,507万人となり、コロナ禍以前と比較して79%の回復を見せた(中国を除くベースでは102%の回復)1。これは、国際的な往来が再開される中で、日本が依然として魅力的な観光目的地であることを示している。2024年には、この回復基調がさらに加速し、訪日外客数は約3,687万人に達し、コロナ禍以前の水準を超える見込みであるとの予測が複数の情報源から示されている 2。
さらに、2025年初頭のデータは、この持続的な成長モメンタムを裏付けている。2025年1月には単月で過去最高の378万1,200人を記録し 6、2月も325万8,100人に達し、2月として初めて300万人を突破した 7。これらの数値は、日本のインバウンド観光セクターが堅調な回復軌道に乗っていることを明確に示している。特に2023年の回復率において中国市場を除外した場合の数値が高いことは、当初中国市場の回復ペースが他市場と比較して緩やかであったことを示唆しており、これは全体の回復速度や市場ダイナミクスに大きな影響を与える要素であった。
総観光消費額と経済効果
訪日外客数の回復に伴い、観光消費額も目覚ましい伸びを示している。2023年の訪日外国人旅行消費額は過去最高の5兆3,065億円に達し、2019年比で10.2%増となった 1。同年の訪日外国人(一般客)1人当たりの旅行支出も21万3,000円と、2019年比で34.2%増加した 9。
2024年には、この消費額がさらに拡大し、8兆1,000億円に達するとの予測がなされている 3。2024年の1人当たり旅行支出(一般客)は22万7,000円と推定されている 13。2023年の段階で必ずしも全ての市場で訪日客数が2019年の水準に完全回復していなかったにもかかわらず、総消費額および1人当たり消費額が大幅に増加した背景には、物価上昇、高付加価値旅行へのシフト、滞在期間の長期化、あるいは消費優先順位の変化といった複数の要因が考えられる。特に2024年の8兆1,000億円という数字は 5、インバウンド観光が日本の主要な「輸出産業」としての役割を増していることを強調している。
パンデミック後の旅行者行動の全般的な変化
パンデミックを経て、訪日外国人旅行者の消費行動には顕著な変化が見られる。2023年の費目別構成では、宿泊費が34.6%と最も大きな割合を占め、次いで買物代(26.5%)、飲食費(22.5%)の順となった。特筆すべきは、買物代の構成比が2019年の水準から減少したことである 9。2024年のデータもこの傾向を裏付けており、宿泊費(33.6%)、買物代(29.5%)、飲食費(21.5%)が上位3費目となっている 13。買物代のシェアは2023年から若干増加したものの、宿泊費の重要性は依然として高い。
これらのデータは、物質的な商品購入を重視する「モノ消費」から、体験を重視する「コト消費」への移行という、より広範なトレンドを示唆している 1。宿泊費のシェア増加は、ホテル料金の上昇、より質の高い宿泊施設への嗜好、あるいは滞在期間の長期化に起因する可能性がある。しかし、単に寝る場所としてのコスト増だけでなく、旅行者が旅行中の「拠点」により多くを投資する戦略的な選択を反映しているとも考えられる。これは、より快適で没入感のある滞在への欲求、あるいはユニークな宿泊体験(それ自体が「コト消費」の一部となり得る)に対するプレミアムを支払う意思の表れかもしれない。例えば、旅館やテーマ性のあるホテル、グランピング施設などは、宿泊そのものが体験価値を提供する。
このような体験型消費へのシフトと1人当たり消費額の増加は、特に地方のデスティネーションや、ユニークな文化体験、自然体験、アクティビティを提供できる専門性の高いサービス事業者にとって大きな機会をもたらす。効果的なマーケティング戦略と組み合わせることで、主要都市圏以外の地域へも観光収入をより公平に分配し、地域経済の活性化に繋がる可能性を秘めている。体験型旅行は、特定の地域で見られる活動(例えば、自然散策、地元の工芸品ワークショップ、ユニークな祭りなど)を伴うことが多い。旅行者が全体的により多く支出し、体験を優先するようになっているのであれば 1、これらのユニークな提供物に対してより遠くまで旅行したり、より多く支払ったりする意思があるかもしれない。これは、地方のDMOや事業者にとって、高消費額の観光客を引き付ける好機となり、地方分散という目標とも合致する 17。
表1:日本のインバウンド観光主要指標(2023年 vs 2024年)
指標 | 2023年 | 2024年(予測/実績) |
総訪日外客数 | 約2,507万人 1 | 約3,687万人 2 |
総観光消費額(億円) | 53,065億円 1 | 81,000億円~81,257億円 3 |
1人当たり平均旅行支出(円) | 213,000円(一般客)9 | 227,000円~227,242円(一般客)13 |
(参考)2019年比伸び率 | 消費額: +10.2% 1 | 消費額: (2023年比) 約+53% 5 |
1人当たり支出: +34.2% 9 |
この表は、近年の日本のインバウンド市場の全体的な回復と成長のスナップショットを提供する。国別の詳細に入る前に市場の規模を数値化することで、議論のより広い文脈を読者が理解できるようにする。両年の比較は、パンデミック後の市場のダイナミズムと急速な進化を浮き彫りにする。
3. 主要インバウンド市場のプロファイリング
このセクションでは、主要なインバウンド市場である韓国、台湾、中国、香港、米国のそれぞれについて、2023年および2024年のデータを基に詳細な分析を行う。
3.A. 韓国
訪日客数と消費力
2023年、韓国は訪日外客数でトップとなり、約695万人~696万人が日本を訪れ、全体の27.7%を占めた 1。同年の総消費額は約7,392億円~7,444億円で、全体の13.9%を占め、国別では第3位であった 19。1人当たりの旅行支出は106,312円(一般客ベースでは101,110円で2019年比47.4%増)であった 19。2024年においても、韓国は最大の送客市場であり続け 22、1人当たりの旅行支出は109,103円と推定されている 13。
韓国市場は訪日客数において極めて重要である。1人当たりの消費額は他の主要市場と比較して低いものの、その圧倒的な人数により、経済的貢献は大きい。2019年からの1人当たり消費額の増加は注目に値する。
旅行目的と滞在期間
2023年の平均滞在日数は4.7泊(観光・レジャー目的では3.6泊)であった 21。地理的な近さから「手軽な短期旅行」を楽しむ傾向がある 19。2024年のデータでは、観光・レジャー目的が87.1%を占め、平均滞在日数は4.2泊(観光・レジャー目的では3.6泊)となっている 13。
短期滞在が特徴的であり、手軽な旅行に適している。マーケティングにおいては、アクセスしやすい体験や目的地に焦点を当てるべきである。
人気の目的地
2023年には「福岡旅行」や「大阪旅行」への関心が高かった 24。2024年の訪問率上位5都道府県は、大阪府(24.8%)、東京都(17.8%)、福岡県(12.4%)、京都府(8.8%)、北海道(6.1%)であった 13。
福岡のような近接性が選択に影響を与えている一方、大阪の人気も根強い。北海道の魅力、特に夏 25 や冬の魅力も明らかである。福岡(近くて気軽)、大阪(都市型、食、エンタメ)、北海道(自然、季節のアクティビティ)といった多様な目的地が韓国人観光客に人気であることは、この市場セグメントが比較的日本に精通しており、多様な体験を求めていることを示唆している。これは高いリピート率によっても裏付けられる。リピーターは典型的な初回訪問ルートを超えて探索する可能性が高い。福岡の近接性はリピート旅行を容易にし、大阪はソウルとは異なる都市体験を提供し、北海道は独特の自然と気候を提供する。これらの人気の目的地の多様性 13 は、リピーターである韓国人観光客が日本国内での旅行パターンを多様化させているという考えを支持する。
旅行形態
2024年のデータによると、個人旅行が主流である(個人手配:86.4%、団体ツアー:10.4%)13。近隣国からの経験豊富で自立した旅行者の傾向と一致しており、FIT(個人旅行)の比率が高い。
消費パターン(2024年、一般客)13
- 宿泊費:34,588円(31.7%)
- 飲食費:29,600円(27.1%)
- 買物代:28,853円(26.4%)
- 交通費:9,253円(8.5%)
- 娯楽等サービス費:6,797円(6.2%)
消費は宿泊、飲食、買物に比較的バランス良く配分されており、交通費は少なめである。これは短期旅行や特定都市への集中を反映している可能性がある。
活動・体験の嗜好
2023年・2024年には、日本のアニメ、映画、音楽への関心が高い 26。夏には涼しい気候と景色を求めて北海道へ 25、冬にはスキーや温泉を楽しむために訪れる 27。広島や熊本への関心も見られる 2。JNTOの戦略では、温泉、リゾート、ローカルフードに焦点を当て、ゴルフもサブターゲットとされている 28。地方の祭りやアニメ・ポップカルチャーイベントへの関心も高い 29。
現代のポップカルチャー、季節ごとの自然、そして温泉のような伝統的な体験が混在している。
リピート率
2023年10月~12月期には70%以上がリピーターであった 24。非常に高いリピート率を誇る 22。JNTOのターゲット特性調査でも、対象となる全セグメントがリピーター(2回以上)である 32。リピーターは「まだ知られていない日本」を求め、地方都市を訪れる傾向がある 25。
高いリピート率が、初めての訪問先を超えた多様で新しい体験への需要を牽引している。
情報源と季節的トレンド
情報源としてはSNSやNAVERブログが利用されている 26。季節的には冬(12月~2月)がピークシーズンであり 31、夏には北海道が人気である 25。
デジタルチャネルがマーケティングの鍵となる。明確な季節的嗜好は、年間を通じた機会を提供する。
韓国市場は、訪日客数が多く、リピート率も高い一方で、個人旅行による短期滞在が主流である。1人当たりの消費額は比較的控えめだが、多様な地方体験や日本のポップカルチャーへの関心が高まっていることから、従来の人気観光地以外への的を絞ったプロモーション、特にデジタルプラットフォームを活用したものが有効と考えられる。訪日客数の多さ 1、高いリピート率 24、短期滞在 21、個人旅行志向 13 といった要素は、経験豊富な旅行者が新しい、アクセスしやすい体験を求めていることを示唆する。1人当たり消費額が低いこと 21 は価格が重要であることを意味するが、地方への関心 25 やポップカルチャーへの関心 26 は、彼らが単に最も安価な選択肢を求めているのではなく、特定の興味を満たそうとしていることを示している。これは、個人旅行者が計画しやすい、多様でよく宣伝された地方の提供物の必要性を示唆している。
3.B. 台湾
訪日客数と消費力
2023年、台湾は訪日外客数で第2位となり、420万人~422万人が訪れ、全体の16.8%を占めた 1。総消費額ではトップとなり、7,784億円~7,835億円(全体の14.7%~14.8%)を記録した 1。1人当たりの旅行支出は189,116円(一般客ベースでは180,510円で2019年比58.3%増)であった 21。2024年には、訪日客数は604.4万人に達し、消費額は1兆936億円に上ると予測されている 35。同年の1人当たり旅行支出は、一般客ベースで187,512円 13、あるいは188,193円 35 となっている。
台湾は日本の観光にとって強力な市場であり、訪日客数と総消費額の両方で常に上位に位置している。力強い回復と消費額の伸びは極めて重要である。
旅行目的と滞在期間
2023年の平均滞在日数は7.0泊(観光・レジャー目的では5.8泊)であった 21。ヨーロッパやオーストラリアからの旅行者と比較して滞在期間は短い 33。2024年のデータでは、観光・レジャー目的が93.7%を占め、平均滞在日数は6.0泊(観光・レジャー目的では5.4泊)となっている 13。
主に観光目的の、中程度の長さの旅行である。
人気の目的地
2023年には北海道への関心が強く、「北海道旅行」の検索数が多かった 24。大阪は最も訪問したい都市の一つである 33。2024年の訪問率上位5都道府県は、東京都(32.7%)、大阪府(17.4%)、京都府(16.3%)、北海道(12.6%)、沖縄県(5.8%)であった 13。
北海道が強い魅力を持つ一方で、東京や大阪のような主要都市が主要な目的地となっている。沖縄の存在はリゾートや島嶼体験への関心を示している。JNTOは台湾人観光客が「日本の隅々まで」訪れると指摘している 26。
旅行形態
2024年のデータによると、個人旅行と団体ツアーが混在している(個人手配:69.3%、団体ツアー:25.5%)13。韓国市場と比較して団体ツアーの割合が依然として高く、FIT向けとパッケージツアー向け双方の提供機会があることを示唆している。
消費パターン(2024年、一般客)13
- 買物代:68,554円 / 68,853円(36.6%)(最大のシェア)
- 宿泊費:53,784円(28.7%)
- 飲食費:39,074円(20.8%)
- 交通費:18,066円(9.6%)
- 娯楽等サービス費:8,006円(4.3%)
買物代は、韓国人観光客と比較して、台湾人観光客の支出において依然として非常に大きな割合を占めている。世界的な体験型旅行へのトレンドにもかかわらず、台湾人観光客の間で買物への高い傾向が続いていることは、この市場にとって買物自体が日本の旅行体験の重要な一部であり、強力な動機付けであることを示唆している。これは、商品の入手可能性、知覚される品質、あるいはユニークな日本製品を見つける喜びといった要因に関連している可能性がある。彼らの高いリピート率 24 は、標準的な観光は既に終えており、現在は買物のような他の楽しい側面に焦点を当てていることを意味するかもしれない。
活動・体験の嗜好
JNTOの戦略では、ローカルフード、伝統的な祭り、温泉、農山漁村体験、アニメ・映画のロケ地訪問、グランピング、エコツアーなどに焦点を当てている 38。自然や伝統文化への関心も高い 39。しまなみ海道、つくば霞ヶ浦りんりんロード、四国や沖縄のサイクリングロードも人気がある 40。アニメ聖地巡礼(例:名探偵コナン映画の五稜郭)も行われている 41。
文化、自然、食、ポップカルチャーにまたがる多様な関心がある。高いリピート率が、より深く多様な体験への関心を促進している可能性が高い。
リピート率
2023年10月~12月期には87.9%がリピーターであった 24。約90%がリピーターであり、そのうち約60%が4回以上訪日しており、特に30代~40代の女性のリピート率が高い 37。JNTOのターゲット特性調査でも、対象となる全セグメントが非常に高いリピート率(78%~91%)を示している 42。リピートの理由や動機としては、日本統治時代へのノスタルジア(高齢層、そしてそれが下の世代へ継承)や 39、異なる地域での新しい体験を求めることなどが挙げられる。
極めて高いリピート率が特徴的である。マーケティングは、新規性と深さを求める経験豊富な旅行者に対応する必要がある。
情報源と季節的トレンド
情報源としては、旅行会社のウェブサイト、口コミサイト、宿泊予約サイトが利用されている 43。季節的には紅葉シーズン(10月)や夏(5月~8月)が人気である 31。歴史的には4月~7月も人気があった 44。
オンラインリソースが混在して利用されている。好天や自然の美しさに合わせた明確な季節的ピークがある。
台湾市場は、際立って高いリピート率と旺盛な消費力、特に買物に対する支出が特徴的である。日本への深い馴染みが、自然、文化、ポップカルチャーを含む多様な地域での多様な体験への欲求を促進している。個人旅行と団体旅行の嗜好が混在しているため、観光事業者には多角的なアプローチが求められる。極めて高いリピート率 24、高い総消費額 1、大きな買物構成比 13、多様な地域・活動への関心 26 といった要素は、この市場が成熟しており、複数の理由で日本を依然として非常に魅力的だと感じていることを示している。彼らは単に観光地を巡るだけでなく、しばしば特定の興味のために再訪したり、新しい地域を探索したりして深く関わっている。個人旅行と並んで団体ツアーが依然として重要であること 13 は、注目すべきニュアンスである。
3.C. 中国
訪日客数と消費力
2023年には242万人が訪日し、全体の9.7%を占めた 1。総消費額は7,604億円で、全体の14.3%を占め、2023年には国別第2位であった 21。1人当たりの旅行支出は320,125円(一般客ベースでは285,115円で2019年比34.7%増)であった 21。他の市場と比較して回復は遅れていた 45。2024年には、訪日客数は698万人に達すると予測され 46、消費額は国別トップの1兆7,335億円に上ると見込まれている 15。同年の1人当たり旅行支出は、一般客ベースで276,604円 13、あるいは277,747円 46 となっている。
当初の回復は緩やかだったものの、中国は消費額でトップの座を取り戻すと予測されている。1人当たりの消費額は高く、歴史的には「爆買い」に牽引されてきた。
旅行目的と滞在期間
2023年の平均滞在日数は16.2泊(観光・レジャー目的では7.5泊)と、2019年と比較して大幅に長期化した 21。観光・レジャーが主要目的である。2024年のデータでは、観光・レジャー目的が82.4%を占め、平均滞在日数は9.2泊(観光・レジャー目的では6.6泊)となっている 13。
2023年の平均滞在日数の長期化は、初期の渡航制限や特定の旅行者層(例:より長期滞在する強い理由を持つ人々)による一時的な現象であった可能性がある。2024年の数値は他の観光市場とより整合性が取れている。
人気の目的地
2023年には、コンビニエンスストア、ドラッグストア、空港の免税店が人気の買物場所であった 45。旅行予約では東京と大阪が人気であった 47。2024年の訪問率上位5都道府県は、東京都(26.8%)、大阪府(16.1%)、京都府(13.4%)、北海道(10.2%)、愛知県(4.5%)であった 13。
主要都市がハブとなっている。買物の利便性が鍵となる。北海道の魅力は中国人観光客にも及んでいる。
旅行形態
2023年には個人旅行(FIT)が圧倒的多数を占め(全目的で93.1%、観光・レジャー目的で92.7%)、パンデミック以前からの大きな変化が見られた 45。2024年も依然として個人旅行が主流である(個人手配:85.9%、団体ツアー:11.9%)13。
FITへの移行は大きな変化であり、以前主流だった団体ツアーモデルとは異なるマーケティングおよびサービスアプローチが必要となる。
消費パターン(2024年、一般客)13
- 買物代:119,351円(43.1%)(圧倒的な最大シェア)
- 宿泊費:73,143円(26.4%)
- 飲食費:49,728円(18.0%)
- 交通費:21,995円(8.0%)
- 娯楽等サービス費:12,378円(4.5%)
買物代が依然として支出の大半を占めており、日本製品への強い関心を反映しているが、この買物の性質は変化しつつある。中国人観光客の団体ツアーからFITへの劇的なシフト 13、そして「爆買い」の鎮静化の可能性 5 と体験への関心の高まり 48 を組み合わせると、中国人市場が急速に成熟していることがわかる。これは、日本の観光事業者が、大量市場向けの買物中心の提供物から、個人旅行者に対応した、よりパーソナライズされた体験豊富な選択肢へと迅速に適応する必要があることを意味する。これには、デジタル統合(WeChat、Alipayなど 49)や多様な地方コンテンツが含まれる。
活動・体験の嗜好
一般的に、文化、食、買物、温泉に関心が高い 49。伝統文化(着物、茶道)、ポップカルチャー(秋葉原や原宿へのアニメ聖地巡礼)、自然(桜、紅葉)、歴史的建造物(京都、奈良)も人気である 49。JNTOの戦略では、リピーター向けに自然、伝統文化、食に焦点を当て、富裕層向けには高付加価値体験、そしてスノーアクティビティも推進している 48。新たな傾向として、「モノ」から「コト」(商品から体験)へのシフトが見られ 5、地元の生活、農業体験、祭りへの関心も高まっている 49。
買物が依然として大きな要素である一方、伝統文化から現代のポップカルチャー、自然に至るまで、多様な体験への需要が明確かつ増大している。
リピート率
2023年第3四半期には57.8%がリピーターであった 45。同年10月~12月期には70%を超えた 24。JNTOのターゲット特性調査でも、ターゲットA、B、Cは高いリピート率(83%~92%)を示している 50。リピーターは自然、伝統文化、食に関心が高い 48。
リピーター層は重要かつ成長しており、新しい地域やより深い体験を求める可能性が高い。
情報源と季節的トレンド
情報源としては、中国独自のSNS(微博、微信、小紅書など)が利用されている 26。C-tripのようなオンライン旅行代理店も活用される 47。季節的には、歴史的に夏(7月~8月)がピークであり 31、国慶節(10月)のような大型連休も重要である 31。
デジタルおよびモバイルファーストの情報収集が主流である。旅行はしばしば祝祭日と連動する。
中国市場は大きな変革期にあり、FITへの急速な移行と、買物以外の多様な体験への欲求の高まりが見られる。「爆買い」現象は消滅するのではなく進化している可能性があり、文化への没入、自然、ユニークなアクティビティへの関心はますます明白になっている。航空便の回復とビザ政策 5 が、この巨大で高消費額な市場の潜在能力を最大限に引き出す上で極めて重要となる。FITへの移行 13 は根本的な変化である。買物支出は依然として高いものの 13、「爆買い」を巡る言説は変化しており 5、体験への関心が高まっている 48。他の市場と比較して初期の回復が遅かったこと 45、しかし将来の予測が強いこと 46 は、航空便の利用可能性やビザ政策といった外的要因 5 が大きな役割を果たしていることを示している。これは、市場が中国人観光客が何を望んでいるかだけでなく、彼らが何にアクセスできるかによっても左右されることを意味する。
3.D. 香港
訪日客数と消費力
2023年には約211万人~216万人が訪日し、全体の8.4%~8.6%を占めた 1。総消費額は4,795億円~4,800億円で、全体の9.0%を占め、国別では第5位であった 21。1人当たりの旅行支出は227,360円(一般客ベースでは223,875円で2019年比45.4%増)であった 21。2024年には、訪日客数は268万人に達し、消費額は6,584億円に上ると予測されている 18。同年の1人当たりの旅行支出は、一般客ベースで248,882円 13、あるいは248,011円 18 となっている。
香港は人口規模に対して非常に強力な市場であり、1人当たりの消費額も高く、急速な回復を見せている。
旅行目的と滞在期間
2023年の平均滞在日数は7.2泊(観光・レジャー目的では6.5泊)であった 21。2024年のデータでは、観光・レジャー目的が94.7%を占め、平均滞在日数は6.8泊(観光・レジャー目的では6.2泊)となっている 13。
主に観光目的の、約1週間の旅行である。
人気の目的地
2024年の訪問率上位5都道府県は、東京都(34.2%)、大阪府(18.5%)、京都府(17.7%)、北海道(10.8%)、沖縄県(4.3%)であった 13。
主要都市中心部および北海道や沖縄のような人気リゾート地への強い嗜好が見られる。
旅行形態
2023年第3四半期には、88.9%が個人旅行であり、FITパッケージを含めると約93.6%に達した 52。2024年も依然として個人旅行が主流である(個人手配:89.9%、団体ツアー:5.9%)13。
FITの比率が極めて高く、非常に自立し経験豊富な旅行者市場であることを示している。
消費パターン(2024年、一般客)13
- 買物代:88,905円 / 88,762円(35.7%)(最大のシェア)
- 宿泊費:74,018円 / 73,716円(29.7%)
- 飲食費:53,767円(21.6%)
- 交通費:22,856円 / 22,629円(9.2%)
- 娯楽等サービス費:8,896円 / 8,882円(3.6%)
買物が主要な構成要素であり、台湾と類似しているが、台湾と比較して宿泊への重点がやや高い。高い購買力が明らかである 18。
活動・体験の嗜好
一般的に、買物(高品質な商品、菓子類、衣類、化粧品)、日本食(寿司、ラーメン、海鮮、和牛)、文化体験、温泉、スキーリゾート、季節のイベント(桜、祭り、雪景色)が人気である 53。アニメやゲームなどのサブカルチャーも人気がある 54。JNTOの戦略では、アウトドアアクティビティ、期間限定イベント、食に焦点を当て、新しい施設を強調している 55。2024年7月~8月のトレンドでは、食・酒(北海道のカキ、宮城)、自然、建築(北陸)への関心が見られた 56。
非常に多様な関心があり、古典的な日本の体験と新しい発見の両方を求める成熟した市場を反映している。食は大きな魅力である。
リピート率
2023年10月~12月期には91.7%がリピーターであった 24。同年第3四半期には87.8%(20市場中最高)であった 52。2024年第1四半期には92.6%がリピーターであり、そのうち35%以上が10回以上訪日している 54。JNTOのターゲット特性調査でも、対象となる全セグメントが圧倒的なリピーター(88%~100%)である 57。リピートの理由や動機としては、近接性、手頃な価格(円安)、日本文化・製品への強い親近感、新しい体験の追求 52、多様な食の選択肢への期待 58 などが挙げられる。
世界的に見ても最も高いリピート率の一つである。この市場は常に新規性と深さを求めている。香港からの並外れて高いリピート率、特に10回以上訪日している割合が高いこと 54 は、多くの香港人旅行者にとって、日本が「外国」の目的地というよりは、継続的な新規性を提供する身近でアクセスしやすい逃避先のようなものであることを示唆している。これは、一般的な「日本」ブランドを超えた、高度にパーソナライズされた、あるいはニッチなマーケティングの必要性を意味する。90%を超えるリピート率 24 は例外的である。10回以上訪日していること 54 は、これらの旅行者が主要な観光地を何度も見ている可能性が高いことを意味する。彼らの継続的な訪問は、彼らが単なる「観光客」ではなく、特定の体験を求める「常連客」に近いことを示唆しており、それはお気に入りの近隣都市を週末に訪れるようなものかもしれない。この深い親近感は、一般的なプロモーションでは効果がなく、彼らの日本に関する高度な知識に対応した、新しい開店情報、ニッチなイベント、またはより深い文化体験に関する情報が必要であることを意味する。近接性と旅行の容易さ 52 が、この頻繁な訪問を促進している。
情報源と季節的トレンド
情報源としては、旅行会社のウェブサイト、口コミサイト、宿泊予約サイトが利用されている 43。季節的には、7月・8月(夏休み)と12月(クリスマス・年末年始)がピークシーズンである。2月・3月(旧正月、イースター)も人気がある 52。
オンラインでのリサーチが普及している。旅行のピークは休暇期間と一致する。
香港市場は、その比類なきリピート率と日本への高いエンゲージメントによって定義される。これらの旅行者は洗練され、自立しており、特に食やユニークな地方の提供物において常に新しい体験を求めている。彼らの高い消費額と頻繁な旅行は、継続的かつきめ細かいエンゲージメントを必要とする非常に価値のある市場であることを示している。最も高いリピート率 24、高いFIT率 13、多様な体験への強い関心 53、高い消費額 18 という要素は、非常に成熟し、価値のある市場であることを示している。彼らは単に再訪しているだけでなく、頻繁に訪れ、深く探索している。これには、常に最新情報を提供し、ニッチな提供物を揃え、非常に具体的な関心に応える戦略が必要となる。
3.E. 米国
訪日客数と消費力
2023年には約203万人~205万人が訪日し、全体の8.1%を占めた 1。総消費額は6,062億円~6,071億円で、全体の11.4%を占め、国別では第4位であった 21。1人当たりの旅行支出は296,813円(一般客ベースでは324,610円で2019年比59.9%増)であった 21。2024年の1人当たり旅行支出(一般客)は331,976円と推定されている 13。
米国市場は、これら5つの主要市場の中で最も高い1人当たり消費額を誇る点で重要である。訪日客数も堅調で成長している。
旅行目的と滞在期間
2023年の平均滞在日数は12.1泊(観光・レジャー目的では11.0泊)であった 21。2024年のデータでは、観光・レジャー目的が73.9%、ビジネス目的が11.3%、その他(VFRなど)が14.9%を占め、平均滞在日数は12.1泊(観光・レジャー目的では10.6泊)となっている 13。
東アジア市場と比較して著しく長い滞在期間であり、日本国内でのより広範な旅行と深い没入を可能にしている。ビジネスやVFR目的の旅行者も相当数いる。
人気の目的地
2024年の訪問率上位5都道府県は、東京都(31.8%)、京都府(15.1%)、大阪府(12.2%)、神奈川県(6.0%)、北海道(5.7%)であった 13。JNTOの戦略では、リピーターをターゲットとした地方分散が掲げられている 60。歴史、文化、アドベンチャートラベルへの関心が高い。
「ゴールデンルート」(東京、京都、大阪)が顕著であるが、自然美(北海道)や文化的な深みを提供する地域への関心も見られる。長期滞在は主要都市以外の探索を容易にする。
旅行形態
2023年には個人旅行やカスタマイズ旅行が主流であった 62。約90%が個人旅行であった 63。2024年も圧倒的に個人旅行が多い(個人手配:93.7%、団体ツアー:4.0%)13。
米国人旅行者は非常に自立しており、自分たちで旅行を手配することを好む。
消費パターン(2024年、一般客)13
- 宿泊費:142,256円(42.9%)(最大のシェア)
- 飲食費:72,435円(21.8%)
- 買物代:58,336円(17.6%)
- 交通費:42,384円(12.8%)
- 娯楽等サービス費:16,560円(5.0%) 2023年第3四半期のデータ 62 でも、宿泊費42.7%、飲食費22.9%、買物代15.7%、交通費13.7%、娯楽費5.0%と同様の傾向が見られる。
宿泊費が群を抜いて最大の支出項目であり、長期滞在やより質の高い宿泊施設への嗜好を反映している可能性がある。買物代の割合は東アジア市場と比較して小さい。米国人観光客による宿泊費への高い支出割合 13 は、個人旅行と長期滞在の嗜好と相まって、地方部でのセルフケータリングやブティック宿泊施設を含む、独立した探索に対応する多様で質の高い宿泊オプションへの需要を示唆している。米国人旅行者は長期滞在し 13、個人で旅行する 13。彼らの最大の支出は宿泊費である 13。これは大都市の高級ホテルだけを意味するのではなく、長期の個人旅行はしばしば、ユニークで快適、かつ立地の良い宿泊施設が鍵となる地方の探索を伴う。これには、高級旅館から設備の整ったアパートメント、あるいはより深い地方への没入を促進する魅力的なゲストハウスまで含まれ得る。彼らは探索のための「拠点」に投資しているのである。
活動・体験の嗜好
一般的に、歴史・史跡(寺社仏閣、城)、自然(桜、富士山)、食関連の体験、地元との交流、博物館に関心が高い 64。「ジャパウ」(パウダースノー)やテーマパークへの関心も見られる 65。JNTOの戦略では、食・飲(ローカルフード)、主要都市(高級ホテル)、景色、史跡、伝統芸能、ライフスタイル体験(茶道、料理)に焦点を当てている 60。リピーター向けにはウェルネス、アウトドア、サブカルチャー。富裕層向けには自然、衛生基準。中山道のような歴史街道でのハイキングやサイクリング 66、伝統工芸体験 68(この情報は台湾人向けだが、文化的好奇心の強い米国人旅行者にも当てはまると推測される)も人気である。
文化への没入、歴史、自然への強い関心がある。食も重要である。スキーのようなアクティブな体験も人気がある。
リピート率
JNTOの戦略では、リピーター(20代~40代)を地方分散のターゲットとしている 61。NRIのレポートでは、広く体験されている特定のアクティビティをリピーターに訴求する際の課題が指摘されている 69。
一部のアジア市場ほど高くはないものの、リピーター層は存在する。戦略は、彼らが初回の目的地を超えて探索することを奨励することに焦点を当てている。
情報源と季節的トレンド
情報源としては、旅行会社のウェブサイト、JNTOのウェブサイト、宿泊施設のウェブサイト(欧米豪全般)43、オンラインメディア、航空会社やホテルとの直接予約 61 が利用されている。季節的には、桜(3月)と紅葉(10月)のシーズンが人気である 31。
オンラインでのリサーチが鍵となる。春と秋の旅行への明確な嗜好がある。
米国市場は高価値セグメントであり、長期滞在、高い1人当たり消費額(特に宿泊費)、そして個人旅行への強い嗜好が特徴である。彼らの関心は文化への没入、歴史探訪、自然に大きく偏っている。主要都市が人気である一方、リピーターや本物の体験を求める人々を地方へ誘導する潜在力がある。高い1人当たり消費額 21、長期滞在 21、FIT嗜好 13、文化・歴史・自然への強い関心 61 という要素は、この市場セグメントが旅行に多額の投資をし、深さを求めていることを示している。彼らの宿泊費への支出 13 は、広範な探索のための拠点としての快適さと質を重視していることを示唆している。これは、特にこれらの本物の体験を提供できる地域において、高品質で文化的に豊かな観光商品への機会を示している。
表2:主要インバウンド市場の比較プロファイル – 2023年
市場 | 訪日客数(百万人) | 総訪日客数シェア (%) | 総消費額(億円) | 総消費額シェア (%) | 1人当たり消費額(円) | 平均滞在日数(泊) | 観光目的 (%) | FIT(個人旅行)(%) |
韓国 | 6.96 1 | 27.7 1 | 7,392 21 | 13.9 21 | 106,312 21 | 4.7 21 | N/A | N/A |
台湾 | 4.22 1 | 16.8 1 | 7,835 21 | 14.8 21 | 189,116 21 | 7.0 21 | N/A | N/A |
中国 | 2.42 1 | 9.7 1 | 7,604 21 | 14.3 21 | 320,125 21 | 16.2 21 | N/A | 93.1 45 |
香港 | 2.11 51 | 8.4 51 | 4,800 21 | 9.0 21 | 227,360 21 | 7.2 21 | N/A | 88.9 52 |
米国 | 2.05 59 | 8.1 1 | 6,070 21 | 11.4 21 | 296,813 21 | 12.1 21 | N/A | ~90 63 |
注:観光目的およびFITの割合は、2023年の包括的なデータが限定的であるため、利用可能な場合は注記として記載。FITの中国は全目的、香港はQ3データ。
表3:主要インバウンド市場の比較プロファイル – 2024年
市場 | 訪日客数(百万人) | 総消費額(億円) | 1人当たり消費額(円) | 平均滞在日数(泊) | 観光目的 (%) | FIT(個人旅行)(%) |
韓国 | N/A (最大市場) 22 | N/A | 109,103 13 | 4.2 13 | 87.1 13 | 86.4 13 |
台湾 | 6.04 35 | 10,936 35 | 187,512 13 | 6.0 13 | 93.7 13 | 69.3 13 |
中国 | 6.98 46 | 17,335 (国別1位) 46 | 276,604 13 | 9.2 13 | 82.4 13 | 85.9 13 |
香港 | 2.68 18 | 6,584 18 | 248,882 13 | 6.8 13 | 94.7 13 | 89.9 13 |
米国 | N/A | N/A | 331,976 13 | 12.1 13 | 73.9 13 | 93.7 13 |
注:2024年の訪日客数および総消費額は、利用可能な最新の年間予測または実績値。韓国と米国の訪日客数・総消費額の2024年年間値の直接的な記載は見当たらなかったため、1人当たり消費額とその他特性を中心に記載。
表4:主要市場別支出内訳 – 2024年(一般客、1人当たり支出に占める割合 %)
市場 | 宿泊費 (%) | 買物代 (%) | 飲食費 (%) | 交通費 (%) | 娯楽等サービス費 (%) |
韓国 | 31.7 | 26.4 | 27.1 | 8.5 | 6.2 |
台湾 | 28.7 | 36.6 | 20.8 | 9.6 | 4.3 |
中国 | 26.4 | 43.1 | 18.0 | 8.0 | 4.5 |
香港 | 29.7 | 35.7 | 21.6 | 9.2 | 3.6 |
米国 | 42.9 | 17.6 | 21.8 | 12.8 | 5.0 |
表5:主要市場別訪問都道府県上位5位 – 2024年(訪問率 %)
市場 | 1位 | 2位 | 3位 | 4位 | 5位 |
韓国 | 大阪府 (24.8%) | 東京都 (17.8%) | 福岡県 (12.4%) | 京都府 (8.8%) | 北海道 (6.1%) |
台湾 | 東京都 (32.7%) | 大阪府 (17.4%) | 京都府 (16.3%) | 北海道 (12.6%) | 沖縄県 (5.8%) |
中国 | 東京都 (26.8%) | 大阪府 (16.1%) | 京都府 (13.4%) | 北海道 (10.2%) | 愛知県 (4.5%) |
香港 | 東京都 (34.2%) | 大阪府 (18.5%) | 京都府 (17.7%) | 北海道 (10.8%) | 沖縄県 (4.3%) |
米国 | 東京都 (31.8%) | 京都府 (15.1%) | 大阪府 (12.2%) | 神奈川県 (6.0%) | 北海道 (5.7%) |
表6:主要東アジア市場等のリピーター率(2023年/2024年)
市場 | リピーター率 (%) | データ年次/期間 | |
香港 | 91.7% | 2023年10-12月 | |
香港 | 92.6% (10回以上35%超) | 2024年1-3月 | |
台湾 | 87.9% | 2023年10-12月 | |
台湾 | 約90% (4回以上約60%) | N/A (JNTO資料) | |
韓国 | 70%超 | 2023年10-12月 | |
韓国 | ターゲット全て2回以上 | N/A (JNTO資料) | |
中国 | 57.8% | 2023年7-9月 | |
中国 | 70%超 | 2023年10-12月 | |
シンガポール | 70%超 | 2023年10-12月 | |
タイ | 70%超 | 2023年10-12月 |
これらの表は、各市場の特性を多角的に比較するための基礎データを提供する。特に支出内訳(表4)と訪問先(表5)は、各市場の具体的な嗜好を浮き彫りにし、リピーター率(表6)は市場の成熟度と関与の深さを示す。
4. 比較分析:差異の明確化
前章で詳述した主要5市場(韓国、台湾、中国、香港、米国)のプロファイルを基に、本章ではこれらの市場間の差異をより明確にするための直接的な比較分析を行う。
主要指標における直接比較
- 消費力: 1人当たり消費額では米国が突出して高く、次いで中国、香港、台湾、韓国の順となる傾向がある 13。ただし、韓国は客数が多いため総消費額では上位に食い込む。台湾と香港も堅調な消費力を示す。中国の1人当たり消費額の高さは、歴史的に買物支出と関連付けられてきた。
- 滞在期間: 米国人旅行者の滞在期間が著しく長く、平均12泊程度であるのに対し、東アジア近隣諸国からの旅行者は比較的短期滞在となる 13。これは、地理的な距離や休暇取得の習慣の違いを反映していると考えられる。
- 旅行目的: 全ての市場で観光・レジャーが主要目的であるが、米国市場ではビジネスやVFR(友人・親族訪問)の割合も比較的高く、目的の多様性が見られる 13。
- 活動嗜好: 東アジア市場ではポップカルチャーや買物への関心が高い傾向が見られる一方、欧米市場では深い文化体験や自然体験への関心がより強い傾向がある。ただし、食への関心は多くの市場で共通して高い 25。
- 地方分散: 表5の訪問先データ 13 を見ると、各国籍の旅行者がどの程度「ゴールデンルート」以外へ足を延ばしているかに違いが見られる。例えば、韓国の福岡や台湾の沖縄への高い訪問率は、特定の地方への強い関心を示している。
- 旅行形態(FIT vs 団体): ほとんどの市場でFIT(個人旅行)が主流となっているが、台湾市場では依然として団体旅行の割合が比較的高い 13。中国市場もパンデミック以前は団体旅行が多かったが、FITへの急速なシフトが見られる。
ユニークな特性とトレンドの分岐
- 東アジア市場(韓国、台湾、香港): 高いリピート率、買物(特に台湾、香港)と食への強い関心、そして地方やニッチな体験への関心の高まりが特徴である 24。近接性から短期・頻回旅行が可能となっている。
- 中国: 団体旅行中心・「爆買い」重視の旅行から、より個人化され、体験を求めるパターンへと急速に進化している。WeChat、Alipay、小紅書といったデジタルプラットフォームの活用が不可欠である 5。
- 米国: 長期滞在、宿泊と体験への高支出、FITへの強い嗜好、そして文化と自然への深い関心が特徴の高価値市場である 13。
「コト消費」対「モノ消費」の分析
「コト消費」(体験型消費)への全般的なシフトが見られる一方で 1、そのバランスは市場によって大きく異なる。台湾や中国のような市場では、依然として買物支出が非常に高い割合を占めている 13。対照的に、米国や欧州市場では、体験(文化、自然、ユニークなアクティビティ)が動機付けや支出割合において買物を上回ることが多い 61。
この「コト消費」トレンドは、全ての市場で一様ではない。一般的に増加傾向にあるものの、その現れ方や「モノ消費」(物品消費)の相対的な重要性は大きく異なる。一部の東アジア市場にとって、買物自体が重要な体験の一部である一方、欧米市場ではユニークな活動や文化への没入がしばしば優先される。例えば、中国人や台湾人観光客は依然として予算の大きな部分を買物に充てているが 13、米国人観光客は宿泊費に多くを費やし、買物には比較的少ない割合しか充てていない 13。これは、「コト消費」が広範なトレンドである一方で、その受容率やモノ消費との相互作用は市場に依存することを示唆している。一部の旅行者にとっては、ユニークな商品や手頃な価格の商品を見つけるスリル自体が「体験」に含まれるのかもしれない。
このような「コト消費」と「モノ消費」のバランスの違いは、日本にとって二元的な戦略の必要性を示唆する。第一に、体験を求める旅行者にアピールするために、特に地方部でユニークな体験を強化し、多様化し続けること。第二に、依然として買物に重点を置く市場に対しては、質の高い、多様で便利な小売環境を確保し、場合によっては買物と文化体験(例:伝統工芸品、地元の特産食品)を統合することである。これは、「価値」が文化によって異なって認識されることを認めるアプローチである。米国人訪問者が深い文化体験を優先し 64、買物への支出が少ないのであれば、地元の工芸ワークショップや歴史ツアーのプロモーションが理にかなっている。台湾人訪問者が高いリピート率を持ち、依然として買物に多額を費やすのであれば 13、彼らがリピーターとして訪れる地方部であっても、ユニークな日本製品へのアクセスを確保することが重要であり続ける。これは、どちらか一方ではなく、市場の嗜好に合わせたきめ細かい「両方」のアプローチである。
5. 新たなトレンドと今後の展望(2025年以降)
インバウンド市場は常に変化しており、新たなトレンドの出現と既存のパターンの進化が見られる。2025年以降の展望を考察する。
進化する嗜好とニッチツーリズム
旅行者の経験値が上がるにつれて、特にリピーターの間で、より専門的でパーソナライズされた旅行体験への需要が高まっている。アドベンチャートラベル、ラグジュアリートラベル、サステナブルツーリズム、ウェルネスツーリズムへの関心が増大している 17。JNTOの戦略には、1人当たり消費額100万円以上の富裕層旅行者やアドベンチャートラベル愛好家をターゲットとすることも含まれている 17。これは、ニッチな分野を専門とする事業者や、従来あまり注目されてこなかったデスティネーションにとって新たな機会を開くものである。
ビザ政策、為替変動、航空供給能力の影響
円安は、特に東アジア市場にとって日本をより魅力的な旅行先にしており、訪日意欲を刺激している 5。中国に対するビザ免除・緩和措置などは、訪日客数に大きな影響を与える 5。また、国際航空路線の回復、特に地方空港への路線や中国からの便の回復は、成長の鍵となる要素である 5。これらの外的要因は、他の嗜好を上回るほど需要とアクセス可能性に大きな影響を与えることがある。
地方デスティネーションと観光商品の多様化の機会
多くの市場で、特にリピーターを中心に、主要都市以外の地域を探索することへの関心が高まっている 1。JNTOも積極的に地方への誘客を推進している 17。このトレンドは、主要都市におけるオーバーツーリズムを緩和し、経済的恩恵をより広範囲に分配するために極めて重要である。成功は、魅力的な地方の観光商品を開発し、効果的にマーケティングすることにかかっている。
課題への対応:オーバーツーリズム、持続可能性、労働力不足
オーバーツーリズムは認識されている問題であり、持続可能な観光と地方分散への注力を促している 12。観光セクターにおける労働力不足も課題となっている 14。成長と持続可能性およびサービス品質のバランスを取ることは大きなハードルである。解決策としては、テクノロジーの活用(AI、DX 74)、オフシーズンの旅行促進、新たなデスティネーションの開発などが考えられる。
中国市場の展望(2025年)5
2025年のインバウンド市場全体の動向は、中国市場の回復が大きな鍵を握る。日中双方のビザ円滑化措置は、訪日客数の増加を後押しすると期待される。航空便の供給能力についても、中国路線は依然として回復の余地が大きい。
しかし、消費行動に関しては、かつての「爆買い」が以前のレベルで再燃する可能性は低いと見られる。モノ消費からコト消費へのシフトが進み、人民元ベースで見た場合の1人当たり消費単価、特に買物代はパンデミック前と比較して低下する可能性が指摘されている。購買意欲そのものが以前ほど高まっていない現状がうかがえる。この背景には、中国国内の経済状況への懸念、政策的な倹約志向、国内電子商取引や国産品の品質向上など、複合的な要因が考えられる。
したがって、2025年の中国市場の回復は、単純な量的回復だけでなく、旅行者の質的な変化を伴うものと予想される。より個人旅行化し、体験を重視する一方で、モノ消費に対してはより慎重になる「新しい中国人旅行者像」に対応した戦略が求められる。これは、かつての大量の買物中心の団体旅行客を前提とした期待や戦略の再調整を意味する。
2025年以降のインバウンド市場の鍵
2025年以降のインバウンド市場は、中国人観光客の動向が大きな鍵を握るが、その回復は「新しい常態」を伴う可能性が高い。すなわち、より個人旅行化し、体験を重視する一方で、物品購入にはより慎重な中国人旅行者が増えることが予想される。これは、かつての「爆買い」を中心とした団体旅行客を前提とした期待や戦略の再調整を意味する。
中国人観光客がFIT化し、体験型旅行を志向するようになると、同様に日本の体験型ニッチ市場をターゲットとする他の東アジア市場(韓国や台湾など)との間で、意図せず競争が激化する可能性がある。これは、日本の提供する商品が、各アジア主要市場に対して明確な価値提案と差別化をさらに細かく行う必要性を示唆しており、直接的なカニバリゼーションを避け、それぞれの市場に独自の魅力を提供することが求められる。
6. 戦略的示唆と提言
本レポートの分析結果を踏まえ、日本のインバウンド観光戦略に関するいくつかの戦略的示唆と提言を行う。
各市場に最適化されたマーケティングと商品開発
- 主要な国・地域ごとの特有の嗜好、消費行動、旅行形態、情報収集チャネルに対応した、明確に異なるマーケティングキャンペーンと観光商品を開発するべきである。例えば、米国市場向けには高級志向や文化体験を、台湾・香港市場向けには買物の魅力と新規性を、韓国市場向けにはポップカルチャーと地方探索を、そして変化する中国市場向けにはFITに対応した体験型商品を提供するなど、きめ細かいアプローチが求められる 17。
データ活用による訪問者体験の向上
- 訪問先の嗜好データ 13、支出内訳 13、活動への関心に関するデータを活用し、人気のある観光地および新たな観光地におけるインフラ、サービス提供、情報提供を最適化する。
- 特定の地域で支配的な訪問者の国籍に基づいて、多言語対応を改善する 49。
持続可能で責任ある観光の推進
- 主要都市のオーバーツーリズムを緩和するため、地方への分散を積極的に推進し、異なる市場にアピールするユニークな地方体験を強調する 1。
- 特に欧米市場の環境意識の高い旅行者に共感を呼ぶような、持続可能な観光商品(エコツアー、コミュニティベースの観光など)を開発し、市場に投入する 17。
市場特有のニーズへの対応
- 中国市場: デジタル統合(決済、情報提供)を強化し、FIT旅行者に対応し、買物以外の新しい体験型商品を開発する 5。
- 高リピート率市場(香港、台湾、韓国): 常に新規性を提供し、あまり知られていない地域をプロモーションし、ニッチな関心事に関する詳細な情報を提供する 25。
- 高価値市場(米国): 高品質な宿泊施設、本物の文化体験、自然を基盤としたアクティビティに焦点を当て、優れたサービス水準を確保する 13。
総括的アプローチの重要性
データ中心の適応的かつセグメント化されたアプローチは、日本がインバウンド観光の経済的利益を最大化し、多様な国際市場全体で持続可能性と高い訪問者満足度を確保するために最も重要である。本レポートで明らかになった市場間の広範な違いは、画一的なアプローチが非効率的であることを示している。例えば、米国人旅行者は宿泊に多額を費やし長期滞在するため 13、多様で質の高い宿泊施設の開発が推奨されるべきである。香港人旅行者は極めて高いリピート率を誇るため 54、新規性や深い掘り下げに焦点を当てた提案が必要となる。これらの提言は、比較分析全体から論理的に導き出されるものである。