01-11. インバウンド誘客に直結!飲食店の「伝わる・喜ばれる」メニュー改善事例集

なぜ今、メニュー改善がインバウンド対応の鍵なのか?

インバウンド観光客にとって、日本の飲食店での食事は旅の大きな楽しみの一つです。しかし同時に、言葉や文化の壁からくる不安も抱えています。メニューは、その不安を解消し、お店への信頼感を醸成する上で非常に重要な役割を果たします。

メニュー改善がインバウンド対応の鍵となる理由は以下の通りです。

  • 第一印象の形成: メニューは、お店のコンセプトや提供する料理の質を伝える最初のツールです。分かりやすく、魅力的なメニューは、お客様に良い第一印象を与えます。
  • 正確な情報提供: 食材、調理法、アレルギー情報、宗教上の配慮(ハラール、ヴィーガンなど)といった重要な情報を正確かつ分かりやすく伝えることで、お客様は安心して注文できます。これはトラブル防止にも繋がります。
  • 食の多様性への対応: 世界中から訪れるインバウンド観光客は、多様な食文化や習慣を持っています。メニューを改善することで、より多くのニーズに応えられるようになり、顧客層の拡大に繋がります。
  • 販売促進効果: 写真を効果的に使ったり、おすすめメニューを分かりやすく提示したりすることで、お客様の「食べたい」という気持ちを刺激し、注文を促す効果が期待できます。
  • 日本の食文化の発信: メニューを通じて、日本の食材や料理にまつわるストーリー、地域の食文化などを伝えることで、単なる食事提供に留まらない、文化体験としての価値を提供できます。

単に日本語を外国語に置き換えるだけでなく、インバウンド観光客の視点に立って、彼らに「伝わる」「喜ばれる」メニューへと進化させることが求められています。

メニュー改善の基本的な考え方:単なる翻訳を超えて

効果的なメニュー改善を行うためには、単なる言語の置き換えという考え方から脱却する必要があります。インバウンド観光客に響くメニューは、以下の要素を備えています。

  • 視覚的な魅力: 食欲をそそる、鮮明な写真やイラストは非常に重要です。料理の見た目だけでなく、使われている食材や調理風景の写真なども加えることで、より具体的にイメージしてもらいやすくなります。デザインやレイアウトも、見やすさ、分かりやすさを意識します。
  • 分かりやすい説明: 料理名だけでなく、どのような食材が使われているか、どのような調理法か、味の特徴(甘い、辛い、酸っぱい、クリーミーなど)を簡潔に説明します。日本の食材で馴染みがないものについては、簡単な解説を加えると親切です。
  • 文化的な配慮: 特定の文化や宗教における食のタブー(豚肉、アルコールなど)や、避けたい食材、食べ方の習慣などを考慮した情報提供が必要です。アレルギー情報も、お客様の命に関わる重要な情報として、明確に表示します。

これらの基本的な考え方を踏まえつつ、具体的なメニュー改善事例を見ていきましょう。

【具体的なメニュー改善事例1】多言語化+αで「伝わる」メニューへ

最も一般的なメニュー改善は多言語化ですが、ただ翻訳するだけでは不十分です。外国人観光客にとって本当に「伝わる」メニューにするためには、写真や分かりやすい説明を加えるなどの工夫が必要です。

事例:写真付き多言語メニューとQRコードの活用

多くの飲食店で導入が進んでいるのが、写真付きの多言語メニューです。例えば、都内を中心に店舗を展開する某居酒屋チェーンでは、英語、中国語(簡体字・繁体字)、韓国語などに対応した写真付きメニューを提供しています。各料理には、使われている主要な食材のイラストや、簡単な調理法の説明(例:「Fried Chicken:鶏肉を揚げた料理」)が添えられています。さらに、QRコードを読み込むことで、より詳細な情報をウェブサイトで確認できる仕組みを導入している店舗もあります。

成功のポイント:

  • 写真の質: 食欲をそそる、プロが撮影したような鮮明な写真を使用することで、料理の魅力を最大限に引き出しています。
  • 正確な翻訳と分かりやすい表現: 専門用語を避け、シンプルで理解しやすい言葉で説明しています。ネイティブスピーカーによるチェックを行うことで、不自然な表現や誤訳を防いでいます。
  • 情報の網羅性: 料理の説明に加え、ドリンクメニュー、デザート、コース料理なども多言語化し、お客様が必要とする情報にアクセスできるようにしています。
  • 利便性の向上: QRコードを活用することで、紙媒体のメニューでは限界がある情報量を提供できるだけでなく、お客様自身のスマートフォンで手軽に閲覧できる利便性を提供しています。また、メニュー改訂時のコスト削減にも繋がります。

【具体的なメニュー改善事例2】多様な食のニーズに応えるメニュー開発

ハラール、ヴィーガン、ベジタリアン、食物アレルギーなど、インバウンド観光客の食に対するニーズは多様化しています。これらのニーズに応えるメニューを用意することで、より幅広い層のお客様を取り込むことができます。

事例:ハラール対応メニューの導入と情報公開

ハンバーガーチェーンのモスバーガーでは、かつて国内の一部店舗でハラール認証を取得した「モスチキン」を提供していました(現在は提供終了)。これは、イスラム教徒の観光客にも安心して日本の味を楽しんでもらいたいという考えから生まれた取り組みです。認証取得にあたっては、専用の調理ラインを設けたり、食材の調達ルートを厳格に管理したりするなど、徹底した取り組みを行いました。

事例:プラントベースラーメンの開発

ラーメンチェーンの一風堂は、海外店舗を中心に、動物性食材を一切使用しない「プラントベース(菜食主義者向け)ラーメン」を開発・提供しています。これは、ヴィーガンやベジタリアンの方々だけでなく、健康志向の層にも人気です。国内の一部店舗でも提供されており、多様な食の選択肢を提供しています。

事例:アレルギー表示の徹底

回転寿司チェーンのくら寿司スシローなどでは、メニューブックやウェブサイトで、主要アレルゲン(卵、乳、小麦、そば、落花生、えび、かになど)の使用状況を分かりやすく表示しています。これにより、アレルギーを持つお客様は安心して寿司を選べるようになります。店舗によっては、アレルゲンを含まない専用メニューを用意したり、個別の問い合わせに対応したりするなどの取り組みも行っています。

成功のポイント:

  • 専門知識の習得: ハラール、ヴィーガン、アレルギーなどに関する正しい知識を持ち、対応可能な範囲を明確にすること。必要に応じて専門機関の協力を得ることも重要です。
  • 透明性の高い情報公開: メニューやウェブサイトで、どのような食材を使用しているか、どのような調理方法か、アレルギー情報はどうかなどを明確に表示し、お客様からの質問にも誠実に答えること。
  • 提供可能な範囲での柔軟な対応: 全てのニーズに応えるのが難しい場合でも、可能な範囲で代替食材を用意したり、特定の食材を抜いたりするなどの柔軟な対応を検討すること。
  • スタッフへの周知と教育: 提供できるメニューの内容や、お客様からの質問への対応方法について、スタッフ全員が理解していることが重要です。

【具体的なメニュー改善事例3】日本の食文化を「体験」として提供するメニュー

食事を単なる栄養補給ではなく、文化体験として楽しみたいという外国人観光客は増えています。日本の食文化に触れることができる体験型のメニューは、付加価値が高く、記憶に残る思い出となります。

事例:寿司握り体験付きランチ

築地や豊洲市場周辺の寿司店の中には、ランチタイムに寿司握り体験をセットにしたコースを提供している店舗があります。プロの板前さんが寿司の歴史やネタについて英語で説明し、お客様自身が実際に寿司を握る体験ができるというものです。自分で握った寿司をその場で味わうことは、外国人観光客にとって非常にユニークで魅力的な体験となります。

事例:蕎麦打ち体験とセットの食事

日本の伝統的な蕎麦処の中には、蕎麦打ち体験と、自分で打った蕎麦を味わえる食事をセットにしたプランを提供しているところがあります。蕎麦の歴史や、蕎麦粉の種類、打ち方などを学び、実際に体験することで、日本の食文化への理解が深まります。

事例:日本酒ペアリングコース

和食店や居酒屋の中には、料理一品一品に合う日本酒をペアリングしたコースを提供し、それぞれの日本酒の特徴や、なぜその料理と相性が良いのかを英語で説明するところがあります。これにより、外国人観光客は日本の食と酒の奥深さを同時に楽しむことができます。

成功のポイント:

  • インタラクティブ性: お客様が受け身ではなく、能動的に参加できる要素を取り入れること。
  • 文化体験としての価値: 単に料理を作るだけでなく、その背景にある歴史や文化、職人の技術などを伝えること。
  • 分かりやすい説明とサポート: 言語の壁があっても安心して参加できるように、分かりやすい説明や、必要に応じたサポートを提供すること。
  • 思い出に残る演出: 体験中の写真撮影を許可したり、修了証を発行したりするなど、思い出に残るような演出を加えること。

【具体的なメニュー改善事例4】苦手な食材を美味しく提供する工夫

前回の記事で触れたように、インバウンド観光客が苦手と感じがちな食材もあります。しかし、これらの食材を日本の食文化の一部として、美味しく提供するための工夫も可能です。

事例:納豆を使ったアレンジメニュー

そのままでは抵抗がある外国人観光客が多い納豆も、調理方法や組み合わせを変えることで受け入れられやすくなります。例えば、「納豆チャーハン」や「納豆オムレツ」、「納豆巻き」などは、他の食材と混ざり合ったり、加熱されたりすることで、納豆独特の粘り気や匂いが和らぎ、比較的食べやすい料理として提供できます。

事例:特定の魚介類を使いやすい調理法で提供

生食に抵抗があるイカやタコなども、天ぷらや唐揚げ、炒め物など、加熱する調理法で提供することで、食感への抵抗が減り、美味しく食べてもらいやすくなります。また、ウニや白子なども、茶碗蒸しや吸い物に入れるなど、他の食材と合わせて提供することで、抵抗感を和らげることができます。

成功のポイント:

  • 既存メニューの強みを活かす: 貴店の得意な調理法や、既存のメニューと組み合わせることで、新たなメニュー開発のハードルを下げることができます。
  • ターゲット層への配慮: どのような国のインバウンド観光客が多いのかを把握し、彼らの食習慣や好みに合わせてアレンジを検討すること。
  • 試食機会の提供: もし可能であれば、少量での試食機会を提供することで、お客様に安心して試してもらうことができます。

メニュー改善の効果測定と継続的な取り組み

メニュー改善は一度行えば終わりではありません。お客様からのフィードバックを収集し、効果を測定しながら、継続的に改善を続けていくことが重要です。

  • お客様からのフィードバック収集: 多言語対応のアンケート用紙を用意したり、QRコードからアクセスできるオンラインアンケートを実施したりして、メニューに関するお客様の意見や感想を収集します。「どのような料理が美味しかったか」「どのような情報が分かりやすかったか」「改善してほしい点は何か」などを具体的に尋ねます。
  • 売上データや注文傾向の分析: どのメニューが外国人観光客に人気があるのか、どのメニューがあまり注文されないのかなどを分析します。これにより、ニーズの高いメニューをさらに強化したり、ニーズの低いメニューを改善したりするヒントが得られます。
  • 定期的なメニューの見直しと改訂: お客様のフィードバックや売上データの分析結果を踏まえ、定期的にメニューの内容や表記を見直します。季節ごとの旬の食材を取り入れたメニューを開発する際にも、インバウンド観光客に伝わるような工夫を忘れないようにします。

海外の先進事例から学ぶ

多文化共生が進んでいる海外の飲食店のメニューからは、学ぶべき点が多くあります。

例えば、ロンドンやニューヨークのような国際都市のレストランでは、メニューに主要な食材が詳細に記載されているのはもちろん、ベジタリアン、ヴィーガン、グルテンフリー、ナッツフリーなど、様々な食事制限に対応したアイコンや表記が当たり前のようにされています。また、特定の料理に使われているスパイスや調味料について詳しく説明したり、ハラールやコーシャに対応可能な料理を明確に表示したりするなど、多様なニーズへの配慮が徹底されています。

これらの事例から、お客様が安心して、自分の希望に合った料理を選べるようにするための情報提供の重要性を再認識できます。

まとめ:メニュー改善は、世界中のお客様を笑顔にするための第一歩

インバウンド観光客に喜ばれるメニュー作りは、単に言語を翻訳することではありません。それは、彼らの文化や習慣を理解し、食の多様なニーズに応え、日本の食文化の魅力を効果的に伝えるためのクリエイティブなプロセスです。

この記事でご紹介した具体的な事例は、貴店のメニュー改善のヒントとなるはずです。写真付き多言語メニューの導入、多様な食ニーズへの対応、体験型メニューの開発、そして苦手な食材の工夫など、貴店の状況に合わせて取り組めることから始めてみてください。

メニュー改善は一度行えば終わりではありません。お客様の声に耳を傾け、時代やニーズの変化に合わせて進化し続けることが重要です。

貴店のメニューが、世界中から訪れるお客様の心とお腹を満たし、忘れられない日本の旅の一部となることを願っています。そして、貴店のメニュー改善の取り組みが、さらなるインバウンド誘客と事業の発展に繋がることを心より応援しています!

次回の記事では、外国人観光客に人気の「体験型コンテンツ」に焦点を当て、食以外の分野も含めた具体的な事例や企画のヒントを探っていきたいと思います。