なぜ今、飲食店でおもてなし英会話が必要なのか?
インバウンド観光客の増加は、日本の飲食店にとって大きなビジネスチャンスです。しかし、言葉の壁があることで、せっかく来店されたお客様に十分なサービスを提供できない、あるいは誤解が生じてしまうといった状況は避けたいものです。おもてなし英会話に取り組むことには、以下のような明確なメリットがあります。
- 顧客満足度の向上:
- お客様がスムーズに注文でき、料理について質問したり、要望を伝えたりできることは、食事体験全体の満足度に大きく貢献します。安心して食事を楽しめる環境を提供できます。
- トラブルの回避:
- アレルギーや宗教上の制限など、食に関する重要な情報を正確に伝え合うことで、食中毒やアレルギー反応といった重大なトラブルを未然に防ぐことができます。
- 販売機会の増加:
- おすすめ料理や追加注文などをスムーズに案内することで、客単価アップに繋がる可能性があります。
- 良い口コミとリピート促進:
- 心のこもったおもてなしは、外国人観光客にとって忘れられない良い思い出となります。SNSや口コミサイトで良い評価を広めてもらいやすくなり、次の来店にも繋がります。
- スタッフのモチベーション向上:
- お客様とのコミュニケーションが円滑に進むことで、スタッフはより自信を持って接客できるようになり、仕事へのモチベーション向上に繋がります。
流暢さより大切な「伝えようとする気持ち」と「笑顔」
「英会話」と聞くと、身構えてしまう方もいらっしゃるかもしれません。しかし、お客様が求めているのは、アナウンサーのような完璧な英語ではありません。拙くても、一生懸命伝えようとするあなたの「気持ち」と、心からの「笑顔」なのです。
考えてみてください。あなたが海外旅行に行ったとして、現地の人が片言でもあなたの国の言葉で話しかけてくれたら、嬉しくないでしょうか? それと同じです。言葉が完璧でなくても、「あなたのために」という気持ちは、必ず相手に伝わります。
まずは、完璧を目指すのではなく、「間違えても大丈夫!」「伝えよう!」という気持ちを持つことが一番重要です。そして、どんな時も笑顔を忘れずに、お客様に安心感を与えましょう。
シーン別!飲食店の「おもてなし英会話」実践フレーズ集
それでは、飲食店の様々な接客シーンで役立つ、シンプルで覚えやすい英会話フレーズを見ていきましょう。難しく考えず、まずはここにあるフレーズを使ってみることから始めてみてください。
【入店時・出迎え】
- いらっしゃいませ。
- Welcome! / Hello!
- 何名様ですか?
- How many people? / How many in your party?
- 席にご案内します。こちらへどうぞ。
- This way, please. / Please follow me.
- 少々お待ちください。
- Just a moment, please. / Please wait here.
- 申し訳ありません、ただ今満席です。
- Sorry, we are full right now.
- 〇〇分ほどお待ちいただきます。
- It will be about 〇〇 minutes wait.
- お名前をお伺いしてもよろしいですか?(ウェイティングリストがある場合)
- Could I have your name, please?
【注文時】
- ご注文はお決まりですか?
- Are you ready to order? / Can I take your order?
- 何かおすすめはありますか?
- (お客様から聞かれた場合) Do you have any recommendations?
- (こちらから聞かれた場合) Yes, I recommend this one. (メニューを指差しながら)
- こちらは〇〇です。(メニューを指差しながら料理を説明する)
- This is 〇〇.
- これは〇〇が入っています。(食材を説明する)
- This contains 〇〇.
- アレルギーはありますか?
- Do you have any allergies?
- (特定の食材を指して)〇〇は食べられますか?
- Can you eat 〇〇?
- 辛いですか?甘いですか?
- Is it spicy? Is it sweet?
- はい、承知いたしました。(注文を聞き終えたら)
- Okay. / All right.
- 復唱します。〇〇と〇〇ですね?(注文内容を確認する)
- Let me repeat your order. 〇〇 and 〇〇, right?
- 他にご注文はありますか?
- Anything else?
- 飲み物はいかがですか?
- Would you like something to drink?
【提供時】
- お待たせいたしました。〇〇です。
- Here you are. / Here is your 〇〇.
- どうぞごゆっくり。
- Enjoy your meal.
【食事中】
- お味はいかがですか?
- How is everything? / Are you enjoying your meal?
- 何かご入り用ですか?
- Do you need anything else?
- (空いたお皿などを指して)お下げしてもよろしいですか?
- May I take this?
- (グラスが空になりそうな時)何かお飲み物はいかがですか?
- Would you like another drink?
【会計時】
- お会計をお願いします。
- (お客様から言われた場合) Check, please. / Bill, please.
- お会計はこちらです。
- Here is your bill.
- 〇〇円です。
- It’s 〇〇 yen.
- お支払いは現金ですか、カードですか?
- Cash or card?
- クレジットカードは使えますか?
- (お客様から聞かれた場合) Can I use a credit card?
- (こちらから答える場合) Yes, you can. / No, sorry, cash only.
- ありがとうございました。(会計後)
- Thank you.
【見送り時】
- ありがとうございました!
- Thank you very much!
- またお越しください。
- Please come again. / Hope to see you again.
- 良い一日を!
- Have a nice day!
- お気をつけて!
- Take care!
【その他役立つフレーズ】
- トイレはどこですか?
- (お客様から聞かれた場合) Where is the restroom / toilet?
- (こちらから答える場合) It’s over there. / Down the hall.
- Wi-Fiはありますか?
- (お客様から聞かれた場合) Do you have Wi-Fi?
- (こちらから答える場合) Yes, we do. The password is 〇〇.
- 禁煙ですか?喫煙ですか?
- (お客様から聞かれた場合) Is this non-smoking / smoking?
- (こちらから答える場合) This is a non-smoking area. / Smoking is allowed here.
- 写真をお撮りしましょうか?
- Would you like me to take a picture for you?
- 少々お待ちいただけますか?(すぐに分からない質問をされた時など)
- Could you wait a moment, please?
- 申し訳ありません、分かりません。(どうしても分からない時)
- Sorry, I don’t understand. (この後、ジェスチャーや他の方法で伝えようとすることが大切です)
これらのフレーズはあくまで基本的なものです。貴店のサービス内容や、よく出る質問などを考慮して、必要なフレーズをリストアップし、スタッフ間で共有することをおすすめします。
英会話に自信がない場合の強い味方
「フレーズを覚えるのが苦手…」「いざとなると言葉が出てこない…」そういった方でも、お客様とのコミュニケーションを円滑にするためのツールや工夫はたくさんあります。
- 指差し英会話シートやメニューの活用:
- 料理名やよく使うフレーズ、アレルギー情報などを多言語で表記したシートやメニューは非常に有効です。お客様に指差してもらうことで、お互いの意図を簡単に確認できます。写真やイラストを豊富に使うと、さらに分かりやすくなります。
- 翻訳アプリの活用:
- スマートフォンやタブレットの翻訳アプリは、単語や短い文章を翻訳するのに役立ちます。ただし、長い文章や複雑な表現、そして音声翻訳の場合は、誤訳が生じる可能性もあるため、あくまで補助的なツールとして活用しましょう。翻訳結果をお客様に見せて確認を取るなどの丁寧さも大切です。
- 写真やイラストを活用したコミュニケーション:
- メニューの写真はもちろん、調理方法や食材を説明する際に、簡単なイラストや写真を見せることも有効です。例えば、ステーキの焼き加減(レア、ミディアム、ウェルダン)などを写真で見せながら確認すると、間違いが減ります。
- 事前に想定される質問への回答集作成:
- 外国人観光客からよく聞かれる質問(おすすめ料理、人気メニュー、支払い方法、Wi-Fiの有無、最寄りの駅など)とその回答をリストアップし、スタッフがいつでも確認できるようにしておきます。簡単な英語での回答例も添えておくと良いでしょう。
言葉の壁を越える「心のおもてなし」
たとえ英語が苦手でも、お客様に「来てよかった」「良い思い出になった」と感じていただくことは可能です。それには、「言葉」以上に大切な「心」のおもてなしが欠かせません。
- 最高の笑顔とジェスチャー:
- 笑顔は万国共通のコミュニケーションツールです。心からの笑顔で迎えるだけで、お客様は安心感を抱きます。身振り手振り(ジェスチャー)も、言葉の不足を補う有効な手段です。
- お客様の目を見て話す:
- 目を見て話すことは、相手に敬意と真剣な気持ちを伝える行為です。カタコトでも、しっかり目を見て話せば、あなたの誠意は伝わります。
- 落ち着いてゆっくり話す:
- 焦らず、ゆっくりと、はっきりとした発音で話すことを心がけましょう。早口になると、英語に慣れていないお客様は聞き取りにくくなります。
- 相手が理解しているか確認する:
- 一方的に話し続けるのではなく、「Okay?」「Understand?」などと問いかけたり、お客様の表情を見たりしながら、伝わっているかを確認しましょう。
- 困っている様子を見逃さない観察力:
- お客様がメニュー選びに困っている、何かを探している、といった様子を見逃さず、「May I help you?(お手伝いしましょうか?)」などと優しく声をかけることが大切です。
これらの「心のおもてなし」は、特別なスキルは必要ありません。日々の接客であなたが大切にしていることを、外国人観光客のお客様にも同じように実践するだけです。
日本・海外の飲食店における多言語対応・接客事例
国内外には、インバウンド対応、特に多言語対応やスタッフ教育に積極的に取り組んでいる素晴らしい事例がたくさんあります。
例えば、ある都内の人気寿司店では、英語、中国語、韓国語など複数言語に対応したタブレット型メニューを導入しています。各ネタの説明はもちろん、アレルギー情報や、寿司の食べ方に関する簡単な解説も含まれており、外国人観光客が安心して注文できるよう工夫されています。また、カウンター席では、板前さんが簡単な英語やジェスチャーで、魚の種類や調理法についてお客様と積極的にコミュニケーションをとっており、これが「ライブ感があって楽しい」と好評です。
地方のある老舗旅館の食事処では、外国人スタッフを積極的に採用したり、既存スタッフに簡単な英会話研修を実施したりしています。彼らは、地域の食材や料理にまつわるストーリーを英語で語り、お客様に日本の食文化を深く理解してもらうことに力を入れています。また、ベジタリアンやアレルギーを持つお客様のために、事前に細かくヒアリングを行い、可能な範囲で個別に対応するなど、きめ細やかなサービスを提供しています。
海外に目を向けると、ニューヨークの多国籍なレストランでは、スタッフの多言語能力が高いことはもちろんですが、メニューには主要な食材や調理法が詳細に記載されており、アレルギー情報も分かりやすく表示されています。また、お客様の好みに合わせて、おすすめ料理やワインペアリングなどを積極的に提案するなど、コミュニケーションを重視した接客が行われています。ロンドンのカフェでは、オーダー時にアレルギーや食事制限がないか必ず確認する習慣が根付いており、安心して食事を楽しめる環境づくりが徹底されています。
これらの事例から、重要なのは「完璧な語学力」ではなく、お客様のニーズを理解し、それに応えようとする「仕組みづくり」と「スタッフの意識」であることが分かります。
スタッフ教育のポイント
おもてなし英会話を店舗全体で推進するためには、スタッフ全員で取り組む体制を築くことが不可欠です。
- 全員で取り組む意識付け:
- なぜインバウンド対応が必要なのか、なぜおもてなし英会話が重要なのかをスタッフ全員で共有し、共通の目標として意識づけを行います。
- 定期的なロールプレイング練習:
- 実際の接客シーンを想定したロールプレイング練習を定期的に行います。基本的な挨拶から注文、会計まで、様々な場面を想定して練習することで、本番でも落ち着いて対応できるようになります。
- 成功体験の共有:
- 外国人観光客とのコミュニケーションがうまくいった事例や、お客様に喜んでもらえた経験などをスタッフ間で共有します。これにより、「やってみよう」というモチベーションが高まります。
- 失敗を恐れない雰囲気作り:
- 間違えても大丈夫、という安心感のある雰囲気を作ることが大切です。スタッフが失敗を恐れずに積極的にコミュニケーションをとれるようにサポートします。
最新テクノロジーの活用も視野に
最近では、テクノロジーを活用することで、言語の壁をさらに低くすることも可能です。
- AI翻訳サービス: 高精度なAI翻訳サービスを導入し、スタッフが困ったときにすぐに利用できるようにしておくと便利です。
- 多言語対応オーダーシステム: お客様自身が言語を選択して注文できるオーダーシステムを導入することで、注文時のコミュニケーション負担を軽減できます。
ただし、これらのツールはあくまで補助的なものです。最終的には、人対人の「心」のこもったコミュニケーションが、お客様の感動に繋がることを忘れてはいけません。
まとめ:おもてなし英会話は特別なことではない
インバウンド観光客へのおもてなし英会話は、決して特別なことではありません。それは、あなたが日頃から大切にしている、お客様への心遣いや気配りを、少し違う言葉や方法で伝えるためのツールです。
流暢な英語を目指すのではなく、この記事でご紹介したようなシンプルで実践的なフレーズを覚え、指差しシートや翻訳アプリを上手に活用しながら、「伝えたい」という気持ちと最高の笑顔で、お客様と向き合ってみてください。
お客様の「Thank you!」「Delicious!」といった言葉や、満足そうな笑顔は、何よりの報酬であり、おもてなしに取り組む上での最高のモチベーションになるはずです。
この記事が、貴店のインバウンド対応、そして外国人観光客の皆様に心から喜んでいただけるお店作りの一助となれば幸いです。さあ、今日からできることから、一緒に始めていきましょう!